
AI導入は、企業の競争優位性を担保する上でも不可欠になりつつありますが、便利なツールとしてだけでなく、業務改善や事業強化にどう結びつけて活用するのかが重要です。
AI導入の際に多くの企業が直面する課題やつまずきやすいポイント、実践的な解決策を事前に把握していれば、無駄なコストをかけることなくスムーズに導入できるでしょう。
本記事では、導入手順からシステム構築までお伝えするとともに、実際に企業に導入した事例もあわせて解説します。
AIの最新トレンドとは?
AIの進化は目覚ましく、医師に代わってがんの診断を行ったり、製造業においては自動的に需要予測や生産計画を算出したりするなど、さまざまな領域で活用が進んでいます。
一方で、AIの導入率は依然として低い水準にとどまっています。総務省が公表した「通信利用動向調査(企業編)令和6年報告書」によると、IoTやAIを導入している企業は全体の18.4%に過ぎません。
企業によっては、AI専任の担当者を配置できないことや予算が限られていること、さらにはセキュリティ面での懸念を考慮し、導入に至っていないという実情があります。
このような状況を踏まえると、早期にAIを導入した上で「使いこなす」ことまで実現できれば、先行者利益の確保につながり、同業他社との差別化を図っていくことにもつながるでしょう。
また、時代にあわせて「迅速に習熟し、組織体制を見直す」といった企業としての姿勢を大切にし、AIの進化に適応していくことも求められます。

(出典:総務省 情報流通行政局|令和6年通信利用動向調査報告書(企業編))
AIは現在、以下のような業務で活用が進められています。
保険業界の接客研修
コールセンターのオペレーターへ正確な情報を提供する後方支援
建設現場における測量データ、設計図書、仕様書への迅速なアクセスの実現
法務関連情報と連携した契約書内容の自動修正
広告クリエイティブ画像に合わせた広告コピー自動生成
古いプログラミング言語から新しい言語への置換を行うモダナイゼーションおよびマイグレーション
これらは一例に過ぎませんが、あらゆる業務領域において、AI活用の可能性は拡大していくと考えられます。
企業がAIを導入するステップ
AI導入時に注意すべきポイントは、解決すべき課題を明確にすることと、成果が出やすい施策から着手することです。また、導入スケジュールや費用を十分に考慮しながら、導入プロセスをスムーズに進めることも求められます。
ここからは具体的な導入ステップを見ていきましょう。
構想ステップ:課題解決に向けた要件整理
AI導入の目的を明確にする
導入コストを検討する
自社データを整理する
具体的な業務に落とし込む
AI導入に向けた要件整理は、まず導入の目的を明確にすることから始まります。目的が曖昧なままでは、解決すべき課題や投資すべきコストが不明瞭になり、導入プロセスに支障をきたす可能性があるからです。
また、検証期間や初期費用の概算も行います。この際には、対象となる課題に対してどの程度のコストをかけられるかという視点を持つことが大切です。
そして、課題の解決に関連する社内データの整理を進めるとともに、データの蓄積や管理方法についても検討します。このデータが、AIの学習促進や精度向上に必要になります。
最後に、導入後のAIをどのように業務へ組み込むか、実運用における活用方法を検討します。場合によっては、AI導入に適した業務フローへの見直しが図られることもあるでしょう。
検証(PoC)ステップ:AI技術選定と試作開発
最適なAI技術を選定する
試作モデルを開発する
業務への適応を確認する
本番実装計画の策定
ここでは、課題の解決や自社業務に最適なAI技術を選定します。
まずは特定の技術に絞り込むのではなく、複数の選択肢を比較検討しながら、最も効果が期待できるアプローチを模索します。検証ステップ(PoC)を通じてそれぞれの技術が有効なのかを検証することが重要です。
また、候補となるAI技術の動作と精度を確認するために試作モデルを開発します。この開発は本格的なものではないため、可能な限りコストを抑えることが望ましいでしょう。
そして同時に、AIの出力結果を業務フローのどの工程で活用すべきなのか明確にしておきます。これは業務との親和性を確認する上で不可欠な工程です。
最後に、AI導入によって見込まれる生産性の向上や創出される付加価値を評価し、妥当な投資コストを算出します。
実装・運用ステップ:最終テストと評価
システム開発の大枠を完成させる
実務オペレーションを確認する
稼働確認と評価をする
AIモデルを再学習する
AIを既存の業務システムにどのように組み込むかを検討します。ここではシステム間のデータ連携や処理フローへの影響、業務との親和性を考慮した設計が必要になります。
あわせて、AI導入後の実務オペレーションに支障がないかを事前に検証し、業務フロー上の問題点を洗い出しておくことも重要です。
本番稼働後は、システムが安定して動作しているかを確認した上で、AI導入による業務効率や品質向上といった効果を定量的に測定して評価します。
AIが期待通りの精度や処理速度で稼働しているかを継続的に監視し、市場環境や顧客のニーズの変化に応じて、モデルのチューニングや再学習を実施します。
こうした運用ステップを通じて、社内におけるAIの適用範囲を拡大することで、企業全体としての利益を高めていくことができるのです。
企業がAIを導入する5つのメリット

企業がAIを導入するのは、経営やビジネスの課題解決に直接的に貢献するためです。特にリソースやコスト面に課題を抱える中小企業にとっては、AI導入が有効な打ち手となります。
ここでは、企業にAIを導入するメリットを5つご紹介します。
自動化により業務効率化が実現できる
AIを導入することにより、従来手動で行われていた多くの業務が自動化されるようになります。なかでも、以下のような業務においては効果が見えやすいでしょう。
資料作成の自動化(議事録や報告書作成など)
データ処理・分析の高速化(分析やレポート作成など)
顧客対応の効率化(チャットボットによる業務効率化など)
これにより業務全体の効率化が実現され、従業員は定型業務から解放されます。その結果、社内の人的リソースを利益創出に直結するコア業務へと再配置できます。
コスト削減につながる
AI導入は、以下に挙げるような、さまざまなコスト削減につながります。
人件費
広告費
開発費
不良品
人件費の削減は、慢性的な労働力不足の解消にも貢献します。限られたリソースの中で経営課題に対応しなければならない中小企業こそ、メリットを実感しやすいかもしれません。
ヒューマンエラーを減らせる
人の手による作業においては、ヒューマンエラーの回避は困難であるといえます。一方で、AIを活用して業務を自動化していくことで、ヒューマンエラーを大幅に削減することが可能です。
ミスの発生が抑制されることにより、現場の混乱を防ぐことができるため、業務全体の効率化を底上げすることにもつながります。
属人化を解消できる
AIを活用することにより、あらゆる業務が自動化され、業務の属人化を解消します。客観的なデータを用いて業務を進めていくため、経験や感覚といった主観的な判断材料を必要としません。
企業の中には業務の標準化が進んだことで、熟練担当者が有給休暇を取得しやすくなったという事例も報告されています。これにより職場環境の改善が図られ、採用活動にも良い影響が出ている企業もあります。
ビジネスチャンスを生み出す
AIは人間では処理しきれない膨大な過去データを分析し、関連性や規則性を導くことができます。通常の業務では想定できないようなことを提案することもあり、これがビジネスチャンスになるかもしれません。
さらに、AIによる予測を活用することで、市場環境や顧客動向の変化をいち早く察知でき、先を見越したビジネス戦略の立案や新たな事業機会の創出にもつながります。
AI導入に成功した企業事例【業界別】
AIはさまざまな業界で導入が進められています。
例えば、業務支援ツールとしてのAIアシスタントは、熟練技能が必要となる製造業や、コールセンター業務が欠かせない小売業界でもすでに活用されています。
ここでは製造業、小売業、金融業の企業事例を見ていきましょう。
製造業にAIを導入した企業事例
製造業においては、労働人口の減少をはじめとする課題に対し、生産性向上と業務効率化を図る手段としてAIの導入が注目を集めています。
ここではAIの導入により、熟練技能の自動化や研究開発の効率化と高度化に成功した事例をご紹介します。
[製造業]熟練技能をAIで自動化|国内自動車メーカー
熟練技能を必要とする磁気探傷検査の自動化を目指して、AIシステムを導入しました。
結果、AIを組み込んだ検査で見逃し率0%、過検出率8%という高い精度を実現しています。
[製造業]研究開発の効率化と高度化を実現|包装資材メーカー
熟練担当者の経験に依存していた研究開発や品質検査にAIを活用することにより、業務の効率化と高度化を実現しました。
過去の開発記録をAIに機械学習させることで、限られたデータからでも因果関係を抽出し、研究開発プロセスの迅速化と生産性向上に成功しています。
また、熟練担当者の感覚やノウハウを数値化したことにより、技能の継承を可能にし、人手不足の解消にもつながりました。
小売業にAIを導入した企業事例
小売業においては、AI導入による需要予測や在庫最適化が特に進んでいます。
ここでは、AIを使った需要予測と自動発注を通じて、食品ロスや欠品の削減、店舗スタッフの業務負担を軽減した企業の事例をご紹介します。
[小売業]発注自動化により工数削減|大手スーパー
AIによる需要予測を行い、日々の商品発注数を自動で算出するシステムを導入しました。
AI導入後、販売機会ロスや商品欠品、廃棄ロスの削減につながっています。
また、発注精度のばらつきが解消され、店舗スタッフの発注にかかる業務負担も軽減されました。業務効率化により、働き方改革が推進されたことも報告されています。
[小売業]食品ロス削減を実現|大手スーパー
適切な値引き率を自動で提案したり、需要予測に基づいて最適な発注数を提示したりと、複数の領域でAIを活用しています。
結果として、値引きや売り切り対応に関わるスタッフの業務負担が軽減され、教育にかかる時間も抑制されました。あわせて、食品ロス率も1割以上削減されています。
さらに、過剰発注や突発的な品切れが防止され、平均3割の在庫削減を実現しています。
金融業にAIを導入した企業事例
金融業においては、生産性の向上とともに、顧客満足度やサービス品質の向上を目的としたAI導入が進んでいます。
ここでは、AI導入により稟議書作成を効率化した事例や、AIアプリケーションを使って高齢の顧客に商品提案を行っている事例をご紹介します。
[金融業]稟議書作成を効率化|地方銀行
融資審査業務における稟議書の作成プロセスに生成AIを活用する実証実験を実施しました。
この取り組みにより、行員の文書作成にかかる負担が軽減され、業務全体の効率化が図られました。年間で最大1万9500時間の業務効率化を見込めることが報告されています。
[金融業]商品選定の認知負担を軽減|都市銀行
高齢顧客の認知判断能力を考慮した金融サービスの提供が求められる中、三菱UFJ信託銀行株式会社は「金融商品適合性チェック支援AIアプリケーション」の導入を主要6店舗にて開始しました。
このアプリケーションは、会話や表情といったデータをもとに、脳の認知機能レベルを15段階で推定し、金融商品の適合性判断を支援するものです。パイロット運用の結果、認知機能レベルの客観的評価が可能であることが確認されました。
高齢顧客からは「安心して取引に臨めるようになった」との評価も寄せられています。
AI導入の課題とは?
ここではAI導入に際して、特に中小企業が直面する課題について解説します。
なお、経済産業省はAI導入ガイドブックを公開しており、AI活用の構想から導入ステップに至るまで、必要な準備事項や担当者の役割などを分かりやすくまとめています。
導入プロセスを体系的に理解する手助けとなるため、まずは一読しておくとよいでしょう。
AI人材の採用・教育が必要になる
導入したAIを効果的に稼働させるためには、適切な運用体制の構築が不可欠です。
AIの運用には、AI人材の採用や教育が重要になりますが、国内ではAI人材の不足が深刻化しており、今後もその傾向は続くことが想定されています。特に中小企業においては、リソースや予算の制約もあることから、できるだけ早く対策を打つ必要があります。
具体的には、担当者の責任範囲や意思決定の権限を明確に定めること、基礎知識やスキルを習得するための教育や研修を実施することが重要です。
また、AIに関する問い合わせに対応できる社内窓口を設けることで、スムーズな運用を支えることができます。
(参考:中小企業省|中小企業のAI・データ活用について 令和元年6月26日)
設備投資コストがかかる
AI導入には一時的な設備投資コストが発生します。さらに、専任の人材を確保する必要があり、採用や育成にかかる人件費も無視できません。
設備投資の負担を軽減する方法としては、国や自治体が提供する助成金や補助金制度を活用することが挙げられます。オンプレミスからクラウドへと切り替えることで、ハードウェアの導入や保守にかかるコストを削減できる可能性もあるでしょう。
このように、初期投資に伴うリスクを管理することで、より現実的にAI導入を進めることができます。
情報漏えいリスクがある
AIを導入する際には、サイバー攻撃のリスクを考慮に入れましょう。セキュリティを破られた場合、個人情報や機密情報が漏えいし、企業活動の継続に深刻な影響を与える可能性があります。
リスクを未然に防ぐには、セキュリティ対策が施された信頼性の高いAIツールを選定し、企業内で策定した明確なルールやガイドラインのもとで運用することが求められます。
また、一般的なITシステムと同様に、アクセス権限の管理、暗号化、ログの記録や監視など、基本的なセキュリティ対策も必要です。
AI導入を成功させるコツ

ここではAI導入を成功させるコツをご紹介します。
導入に向けて目的意識を持つ
外部のAI専門家やコンサルタントに相談する
AI搭載のツールを活用する
AI導入時の注意点は、導入が目的化してしまうことです。このようなケースでは、実務における具体的な課題や目的が不明確なままプロジェクトが進行し、結果として期待した効果が得られない可能性があります。
また、AI導入にはセキュリティ対策、データ活用に関する契約・法令遵守・システム連携といった検討事項が含まれるため、専門的な知見が必要になります。自社で対応できないときは、外部のAI専門家やコンサルタントに相談してみましょう。
専門家への相談が難しい場合には、あらかじめAIが組み込まれたツールを導入するという選択肢もあります。たいていはユーザーフレンドリーな設計となっており、専門知識がなくても比較的容易に導入・運用することが可能です。
AI活用を社内に浸透させる方法

AI導入は最終目的ではなく、あくまでもビジネス変革のスタートラインです。具体的な成果を出すというゴールに最短距離で近づくためには、AIを積極的に活用する必要があります。
ここでは、AI活用を社内に浸透させる方法をご紹介します。
経営層がAI活用を促す
定期的な勉強会を促す
成功事例を共有して「自分ごと化」してもらう
まずは、経営層や管理職が主導的な役割を担い、他の社員と積極的にコミュニケーションを取りながら活用を促していくことが重要です。
特に経営層が自ら利用する姿勢を示すことで、AI活用が全社方針だと伝えることができ、社員の意識と行動が変化しやすくなります。
また、AI活用を社内に浸透させる方法として、定期的な勉強会や社内セミナーの開催も効果があります。社員同士が活用ノウハウなどを共有することで、互いに学び合い、活用の幅が広がっていくでしょう。
さらに、社内での成功事例を共有することも不可欠です。特に活用前後の成果を定量的に比較した事例などを示すことで「自分の業務にも活かせるのでは」と、社員がAI活用を自分ごととして捉えるきっかけを提供できます。




