
近年、企業の成長や競合優位性を保つためにDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が不可欠となっています。経済産業省も「デジタルガバナンス・コード」「DX推進指標」「DX認定」などDX推進施策を展開し、産業界のDX推進を支援しています。
しかし、DXには「攻めのDX」と「守りのDX」という2種類のアプローチがあることをご存じでしょうか。本記事では、それぞれが持つ目的や特徴、具体的な推進ステップ、事例などを解説します。
- 攻めのDXの定義とは:新しい価値を創出する戦略
- 収益拡大と競合優位性確保を目指す仕組みづくり
- 製品・サービスの高度化とマーケティング強化
- 守りのDXの定義とは:業務効率化と知的資産の保護
- 基幹システムの刷新や自動化によるコスト削減
- リスクマネジメント・コンプライアンスへのDX活用
- 国内企業における現状:守りのDXが先行する理由とは?
- 攻めのDXを躊躇する背景と課題
- 攻めのDXを推進するためのステップ
- ステップ1.守りのDXを成熟させる
- ステップ2.スモールスタートで進めるアジャイル開発
- ステップ3. DX人材の確保と育成方法
- 製造業やサービス業にみる攻めのDX事例
- 生産性向上と属人化解消を実現した製造業の取り組み
- 顧客視点の新サービス開発に成功したサービス業の例
- データのサイロ化対策と組織体制強化の要点
- まとめ:守り×攻めのDXを推進して企業の成長を加速させよう
攻めのDXの定義とは:新しい価値を創出する戦略

攻めのDXでは、新規事業の立ち上げや付加価値の高いサービス開発を通じて、市場での競争力を強化します。
新規事業や既存サービスの大幅な刷新によって収益を拡大することを目標とし、データ分析やAI、IoTなどの先進技術を用いてビジネスモデルをイノベーションさせ、従来の枠組みに縛られない製品やサービスを素早く提供していきます。
顧客の行動データや市場動向を意味ある形で可視化し、的確な施策を打つことにより、新たな収益機会を創出できる点も特徴です。海外と比べると日本企業は新規事業への投資に慎重な傾向がありますが、攻めのDXの実践はグローバル市場でも重要な競争力となります。
イノベーション志向の組織文化を育み、小規模な実証実験(PoC)を繰り返して成功事例を積み上げることで、企業としてのDX推進スピードを加速させることが望まれます。
収益拡大と競合優位性確保を目指す仕組みづくり
攻めのDXの第一歩は、既存顧客および新規顧客に向けた新しい価値提供の機会を捉えることです。データを活用して即時に見積もりを提示し、顧客に迅速なサービスを提供するようなシステムを構築する事例もあります。
こうしたデータドリブン的な手法は、競合他社との差別化だけでなく、顧客満足度の向上や新しいビジネスの創出にも寄与します。重要なのは、社内に蓄積されているデータを戦略的に活用し、ビジネスモデル全体を見直す視点を持つことです。
さらに、新規事業に十分なリソースを投下しやすい組織体制を整え、得られたノウハウを横展開していくことで、収益構造の多角化と競合優位性の確保につながります。
製品・サービスの高度化とマーケティング強化
製品やサービスの付加価値を高めることも重要なテーマです。例えば、AIを搭載してリアルタイムで顧客の利用状況や傾向を分析し、個別ニーズに合わせたプランや機能を自動的に提案するといった取り組みが挙げられます。
これにより顧客ロイヤルティの向上やアップセルの機会拡大が期待でき、結果として収益増にもつながります。マーケティング面でも、デジタルチャネルの強化によって多面的な顧客接点を設け、継続的なコミュニケーションが可能となります。
守りのDXの定義とは:業務効率化と知的資産の保護

守りのDXでは、組織内部の改善やリスク低減を目的にシステム投資や業務プロセスの最適化を行います。
既存のビジネスプロセスをデジタル化・自動化し、コスト削減や業務効率化を徹底することで、企業に安定した収益基盤をもたらす役割を担います。例えば、経理や人事などの間接部門でのRPA導入によりミスや工数を削減する取り組みが進められています。
また、企業が扱うデータや知的財産をどのように守りつつ、有効活用できるかを考えるという点も重要です。古いシステムの維持にコストをかけ続けるより、基幹システムを刷新してセキュリティを高めることでセキュリティに関するリスクを軽減し、企業価値を守ることが可能になります。
守りのDXによって内部の土台を強化しておけば、市場環境の変化に対して柔軟に対応できる体制を築くことができ、攻めのDXに挑戦できる環境づくりが後押しされるのです。
基幹システムの刷新や自動化によるコスト削減
守りのDXにおいては、長年使われてきたレガシーシステムの更新や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の採用が大きなポイントとなります。基幹データをクラウド環境に移行することで、保守運用コストの削減や柔軟なスケーラビリティが得られ、変化の速い市場にも対応しやすい環境を整えられます。
また、現場の業務担当者が繰り返し行う定型作業を自動化すれば、ミスを減らしつつスピーディな業務運営が可能です。その結果、社員はより創造的な業務にリソースを割けるようになり、付加価値の高い活動へと時間を振り向けられます。
このように、守りのDXは企業体質を改善すると同時に、新たなチャンスを生むきっかけづくりにも貢献します。
リスクマネジメント・コンプライアンスへのDX活用
情報漏えいやデータ破損など、企業経営を揺るがすさまざまなリスクは年々複雑化し、守りのDXを推進する過程でセキュリティレベルを向上させ、膨大な情報を整理・保護する仕組みを築くことが求められています。
コンプライアンス対応でもDXが大いに役立ちます。データガバナンスの体制を整えることで、各種規制変更への迅速な対応や内部統制の強化が実現でき、経営の透明性を高める効果が期待できます。
情報の保護と管理の仕組みを整備しつつ、企業の信用力を高めていくことが結果的に競合優位性にもつながるでしょう。
国内企業における現状:守りのDXが先行する理由とは?
日本企業のDX推進状況では、守りのDXが先行していると言われています。
日本企業の多くがコスト削減や生産性向上といったわかりやすい成果を求める傾向にあります。守りのDXは比較的導入のハードルが低く、経営層も納得しやすいため、結果として守りのDXが先んじる形になっています。
さらに、守りのDXは問題点が明確であり、ROIを短期的に算出しやすい点も導入が進む背景と言えます。企業がまず目の前の課題解決を優先することは自然な流れではありますが、そこにとどまってしまうとDX本来の可能性を十分に発揮できません。
しかし、攻めのDXに踏み切るには投資リスクや組織変革に対する負荷を伴うため、なかなか着手できない企業が多いのも現状です。日本企業特有の保守的な組織文化や、DX人材の不足も大きなハードルとなっています。
その結果、せっかく守りのDXで効率化した成果を攻めのDXに生かせず、一部のオペレーション改革にとどまるケースが少なくありません。そのため、次のステップとして新規事業やサービス開発へ挑戦できる体制が整っているかが重要となります。
攻めのDXを躊躇する背景と課題
攻めのDXには新規事業開発や新技術導入に向けた投資が必要となるため、そのリスクをおそれて施策を実行に移しにくい企業が多いという現状があります。また、先述したとおり、DXを推進する人材や専門知識を持つリーダーが不足している点も大きい要因です。
さらに、企業内部の意思決定プロセスが複雑でスピード感に欠ける場合、変革推進に時間がかかり、ライバル企業やグローバル市場での後れを取る可能性があります。こうした結果として、安全策に偏った投資が行われがちになります。
しかし、市場環境が急激に変化する時代だからこそ、企業は新しい事業機会の探索を継続的に行い、DX推進による競合優位を確立していく姿勢が求められています。
攻めのDXを推進するためのステップ
企業としてDXを加速するには、まずは守りのDXを安定化しつつ、小さく始めて徐々に拡大するのがポイントです。
ステップ1.守りのDXを成熟させる
守りのDXが一定の成果を上げ、業務の効率化が進んでいれば、社員は新規事業開発に注力する時間を生み出しやすくなります。管理業務の自動化や基幹システムの刷新により、不要な作業が削減されれば、社内ではより高度なプロジェクトに着手できる余力が生まれるのです。
例えば財務・会計系の業務が効率化されると、新規プロジェクトの収益性分析や市場調査により多くの時間を割けるようになります。これらの取り組みの積み重ねにより、攻めのDXへのスムーズな橋渡しが期待できます。
守りと攻めのDXを相互に連動させることで、企業全体のDXについての成熟度が高まり、ビジネス環境の変化にも柔軟に対応できる「しなやかな組織」の実現が可能となります。
ステップ2.スモールスタートで進めるアジャイル開発
新しいデジタルプロジェクトを大規模に立ち上げると、投資リスクが大きくなり経営判断も鈍りがちです。そこで有効なのが小さく始めるアジャイル的なアプローチで、短期のスプリントを回しながらプロトタイプを試験的に導入し、改善を繰り返すという方法です。
このように小規模の実証を続けることで、失敗による損失を最小限に抑えながら成功要因を把握できるようになります。その結果、成功モデルの再現性や汎用性を確認し、段階的にほか部門やほかサービスへ展開することが容易になります。
このプロセスでユーザからの声を迅速に吸い上げ、開発チームと経営者の間で情報を共有することで、全社的な学習効果を高められることも大きなメリットです。
ステップ3. DX人材の確保と育成方法
攻めのDXには、クラウド技術やAI、データサイエンスなど幅広いデジタルスキルを持った人材が欠かせません。しかし、即戦力となる専門人材を外部から期待するだけでは限界があります。
そこで、自社内での人材育成や社内横断プロジェクトを通じたトレーニングなど、長期的な視点で取り組むことが重要です。例えば研修プログラムや勉強会、専門家の招へいなど、組織として継続学習を支援する環境をつくるとよいでしょう。
また、オープンイノベーションを取り入れ、スタートアップ企業や異業種企業との連携を図ることで、新しいノウハウやアイデアを取り込み、さらに自社人材の知見を広げる機会も増やすことが可能です。
製造業やサービス業にみる攻めのDX事例
実際に攻めのDXに取り組んだ企業の成功事例を紹介し、その具体的効果を確認します。
攻めのDXは単に新技術の導入に終わるものではなく、従来のオペレーションを根本から見直し、顧客や社内でのコミュニケーションの価値を大きく変える可能性を秘めています。以下で紹介する事例では、生産性向上のみならず、新しい収益源の開拓にも成功しています。
特に海外との競争や消費者ニーズの多様化が進む現代では、同業他社との差別化戦略として攻めのDXの重要性がいっそう増しています。
生産性向上と属人化解消を実現した製造業の取り組み
ある製造業では、IoTを活用した設備や製造ラインの状態監視を導入し、リアルタイムでの稼働状況の把握や予兆保全を実施しています。これにより故障リスクを減らし、生産計画を精緻化することで製品の安定供給と品質向上に成功しました。
さらに、ベテラン社員の暗黙知となっていた製造ノウハウをAI解析で定量化し、新人社員へマニュアル化して共有する仕組みを構築しました。業務の属人化を解消し、教育コストの削減と同時に作業標準のアップデートを効率的に進められるようになりました。
結果として、現場レベルでの生産性向上だけでなく、企業全体としての競争優位に寄与し、顧客からの要求への迅速な対応と安定経営を実現しています。
顧客視点の新サービス開発に成功したサービス業の例
金融業界では、スマートフォンだけで審査から口座開設まで完結するサービスを立ち上げ、顧客接点を大幅に向上させた事例があります。便利なアプリケーションを基点にお客様の利用状況やニーズを分析し、新たなローン商品やポイントプログラムを提案する仕組みを導入しました。
また、飲食店や宿泊施設などの顧客情報を取得し、個人ごとの嗜好に合ったクーポンやサービスを提案する事業者も増えています。これにより、顧客は自身に最適化されたサービスを受けられ、企業側はリピーターを増やすことに成功しています。
こうした攻めのDX事例は、デジタルプラットフォームを武器に顧客体験を大きく変え、企業の収益拡大とブランド価値向上にもつながっている例です。
データのサイロ化対策と組織体制強化の要点
DX化を進めるにあたっては、全社でデータを一元管理し、部署横断的にデータを活用できる体制づくりが求められます。
企業内のデータが部門ごとにバラバラに管理されている状態は、いわゆるデータのサイロ化が進んでいるという証拠です。こうした状況では、貴重な情報資源が有効に活用されず、部門間連携や統合的な分析が遅れる原因となります。
そこで、全社横断でデータガバナンスを確立し、基幹システムから顧客管理システム、製造ラインのIoTデータまで統合的に管理する仕組みを構築する必要があります。将来的には業務の自動化や高度なAI分析への道が開けるため、早期に取り組むほど改善効果が期待できます。
組織体制面でも、DX推進のための担当部署あるいはチームを設置し、経営層からのサポートと予算承認を迅速に得られる構造を築くことが重要です。こうした連携が強化されれば、守りと攻めの両DXを統合的に推進しやすくなります。
▼データ活用に関する記事はこちら
まとめ:守り×攻めのDXを推進して企業の成長を加速させよう
守りのDXで足固めをしながら攻めのDXに挑戦することで、新たな価値創出が可能となり、企業の成長を一段と加速させることができます。
本記事で紹介したように、守りのDXは比較的短期間で導入効果を得やすく、組織を安定させるための土台づくりに最適です。そして、既存業務が整備され、コスト削減や効率化の成果が出始めれば、本格的に攻めのDXへと乗り出す余裕が生まれます。
攻めのDXによって、新規事業や革新的なサービスを展開できるようになれば、企業の収益源やブランド価値を飛躍的に高められるでしょう。その際は、国内外の事例からもわかるように、新たなデジタル技術を積極的かつ柔軟に取り込むことが大切です。
守りと攻めを両輪とするアプローチを実行に移し、企業文化や組織体制を変革することで、予測不能な市場変化に対応できる強い企業体質をつくり上げましょう。そうすることで長期的な企業価値創造につながるはずです。
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